レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2 損傷の本当の機構は何か?:植田 憲一

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1 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 1【損傷の本当の機構は何か?】 典型的なレーザー損傷には熱融解による損傷と光学薄膜に亀裂や層間剥離が生じる機械的破壊損傷が観測されます。しかし、顕微鏡観察で見ているものは、いずれも完全に破壊され尽くした後の損傷具合であって、その損傷がどのようにして発生、発展したか、という過程を解析しなければ、損傷を防止する方策に知識を与えることができません。その意味で、損傷強度を測定しただけでは、損傷機構は未解明のままだといえます。今回は損傷がどのようにして始まるのか、その根本的機構は何かを考察します。 光響オリジナル
2 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 2【損傷の本当の機構は何か?】 レーザー光を吸収すれば、吸収エネルギーに応じて薄膜は温度上昇し、それが融点を超えれば、固体は液体化し、さらに吸収係数を増大しながら蒸発、プラズマへと物質相を変化させながら破壊が進行します。一旦発生した相変化、固相から液相、液相から気相の変化は温度が下がっても、同じ形状の固体に戻ることはないので、溶融するということは永久的な損傷となります。これは熱の流入による物質相の変化なので、その過程を人為的に調整することは不可能です。そのため、対策としては、損傷強度以下で使用することと、基板の冷却能力を上げて到達温度を下げることになります。 光響オリジナル
3 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 3【損傷の本当の機構は何か?】 これまでの考察の結果、クリーニング技術が重要だということが導かれました。筆者が経験したクリーニング技術は1.エアーブロー、2.引っ張り洗浄、3.超音波洗浄、4.スピンコーター洗浄の 4 種類でした。おのおのについて考察を加えます。さらに、レーザー学会のセミナーで若手研究者と学生に紹介した”洗浄の要らない光学系”である”涙を流す光学系というアイデア”を最後に紹介します。 光響オリジナル
4 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 4【損傷の本当の機構は何か?】 研究室に入って最初に経験したのは、ガラス細工のために、ガラス管を洗浄することでした。真空ラインの中で反応させて無機の液体レーザーを作ろうとした場合、ガラス管を洗浄する必要があります。さらには、液体レーザーのセルは石英製の2重菅に石英窓をトールシール(10^-6 Torr の真空に耐えるエポキシ接着剤)で付けたものを再利用するため、重クロム混酸(重クロム酸カリの濃硫酸溶液)に漬けて汚れを取りました。 光響オリジナル
5 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 5【損傷の本当の機構は何か?】 実験室のほこりやゴミが付着して、光学薄膜の上に乗っている状態を洗浄するには、エアーブローが使われます。光学素子に与える影響が最も少ない洗浄方法で、ゴミがただ乗っているときに有効な方法です。 光響オリジナル
6 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 6【損傷の本当の機構は何か?】 レーザー研究者が最初に訓練されるのが引っ張り洗浄です。筆者が卒業研究に入った 1968 年当時、コダックがレンズクリーニングペーパーを発売しました。それまで用いられていた柔らかい紙に比べて長繊維の紙で、小さなほこりも入っておらず、すべすべした紙でした。光学ミラーに有機溶剤(当時はトリクレンを使ったが、その後、発がん性が見つかり販売は禁止されました。)を点下し、表面を有機溶剤で覆った後にレンズクリーニングペーパーを置いて、毛細管現象で汚れを溶かし込んだ有機溶剤を吸い上げます。それをゆっくりと一方向に引っ張って、表面に液滴が残らないように注意しながらペーパーを引き抜きます。この際、引っ張り抜いたときに、きれいにすべての溶剤をぬぐい去るには、溶剤の蒸発速度の制御が必要で、ミラーの大きさによってはトリクロン・エーテルの混合液とすることもあります。 光響オリジナル
7 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 7【損傷の本当の機構は何か?】 超音波洗浄は光学素子全般を洗浄するため用いられており、実際、大型レーザー光学系の洗浄も、クリーンルーム内で超純水洗浄が使われています。 光響オリジナル
8 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 8【損傷の本当の機構は何か?】 重力波検出用には PPM 損失の超高品質ミラーが不可欠です。1990年、重点領域研究の準備である重力波検出の総合研究に超高安定化レーザーの開発計画の代表者として参加して、すぐに 10-21Hz/Hz2/1という量子限界安定度を達成するには、1kW の縦横単一モード出力と数 10 万以上のフィネスを持った参照共振器が必要なことを理解しました。そのために不可欠なものは 99.999%以上の反射率を持った超高性能ミラーです。このようなミラーは米国ではジャイロ品質ミラーと呼ばれ、誘導ミサイルの心臓部を形成する最高の軍事機密で、日本には存在しませんでした。しかし、重力波アンテナを日本に建設するには、そのような超高品質ミラーを日本で国産化する必要があり、米国国防省に登録されておらず、なおかつそのような技術を持つ会社を探しました。さいわいクリーンルームのクリーン度を計測するために緑色の He-Ne レーザーを使っていた PMS Particle MeasurementSystems の協力を得て、PPM 損失ミラーの共同研究を行ないました。利得の低い緑色のHe-Ne レーザーを発振させているくらいですから、より波長の長い 1μm 用のミラー開発はうまくいきました。ただし、可視公用の薄膜に用いていた TiO2 は Ta2O3 に変更してもらいました。波長が長い分、可視光の吸収特性より、膜の堅さ、安定性を優先したのでした。 光響オリジナル
9 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 9【損傷の本当の機構は何か?】 クリーニングを必要としない光学系はあり得るか?という問いに対して、学生にできるレーザー新世代技術 -ハイブリッドレーザー結晶から涙を流す光学系までーといった講演をしたことがあります。1999 年 7 月にレーザー学会の第 10 回若手技術者と学生のためのレーザー応用セミナーの基調講演を依頼されたことに応えたものでした。 光響オリジナル
10 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 10【損傷の本当の機構は何か?】 今とは異なりミサイルや航空機を破壊する巨大レーザー兵器が本気で考えられていた冷戦時代、戦略防衛構想 SDI では連続出力 MW 級の巨大レーザー、CO2 レーザーや化学レーザーが開発されましたが、それらに用いるミラーは金属薄膜で反射させていたので、2%〜4%の吸収を避けることができませんでした。MW 級レーザーの数%を吸収するとなると、ミラーの加熱は避けられず、さまざまな工夫が必要となりました。 光響オリジナル
11 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 11【損傷の本当の機構は何か?】 レーザー損傷に限らず、破壊現象は、小さなことが全体に影響する難しい問題です。これは放電現象論で学習する絶縁破壊現象も同様です。なぜなら現象の原点から破壊する間に、巨大なダイナミックレンジの現象があり、ごく微小な原因が、同じことの繰り返して無限に拡大する結果、物質の破壊というマクロ現象にまで急速に発展するからです。だからこそ、最後の結果だけ見て現象を議論することはできず、本当の機構を知らなければ、損傷を避ける議論をすることは難しいです。損傷の本当の機構は何でしょう、これが出発点となります。 光響オリジナル
12 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 12【損傷の本当の機構は何か?】 最初にことわっておきますが、筆者の経験から来る知識ではこの部分の情報は古く、現在では変わっているかもしれません。1980 年代の考えです。その頃の考えとしては、電子ビーム蒸着の方がスパッタリング膜よりレーザー損傷に強いと考えられていました。そしてその差はパッキング密度の差として説明されていました。当時はイオンアシストもなかったので電子ビーム蒸着膜は文字通り、ふわっと形成されていて、パッキング密度はスパッタリング膜に比べて低いのが普通でした。それがかえってレーザー損傷には有利に働くと受け取られていました。密度の高い膜は、当然、硬いです。そして硬い膜は一部の欠陥に応力集中するのでもろいと考えました。 光響オリジナル
13 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 13【損傷の本当の機構は何か?】 パッキング密度の低い膜の方が損傷に強いのではないか、という考えにまったく根拠がなかったわけではありません。いつのことか忘れましたが、米国のコーティングメーカーであるOCLI がフラッシュランプ用の誘電体多層膜コートを開発したということを聞きました。ガラスレーザーなどの励起に適した波長の光を増強するため、不要な波長の光を反射してプラズマに戻し、必要な光だけを取り出すという画期的なアイデアをテストしたものでした。プラズマの黒体輻射で決まる熱平衡状態を、波長選択的な反射鏡をフラッシュランプにすることで、外界との結合効率を変えることで、いわば熱力学に挑戦するようなアイデアでした。 光響オリジナル
14 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 14【損傷の本当の機構は何か?】 ここで IBS コーティングについて、少し余談を挟んでみましょう。筆者は1990年に重力波検出用のレーザー、光学系の開発をするようになって、最初に必要とされたのが、100万分の1の損失しかない量子限界ミラーの開発でした。そのためには、IBS コーティングが必要と考えましたが、当時我が国では IBS コーティングの技術を持つ企業は少なく、日本航空電子のようにレーザージャイロを開発していた企業に限られていました。筆者は米国PMS 社と共同研究を開始し、それを使ってサブヘルツの安定度を持つレーザーを開発し、超高品質ミラーの特性を測定可能にしました。これを利用して、高性能光学薄膜研究会という会費無料、個人参加の研究会を開催し、定期的に情報交換をする機会を設けました。多くの光学メーカーの技術者が参加し、最終的には130名が登録され、毎回、活発な検討を加えながらミラー開発の問題を解決していきました。 光響オリジナル
15 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 15【損傷の本当の機構は何か?】 レーザー損傷には最初に何らかのミクロな損傷が発生し、次にそのミクロな損傷が中心になってより大きく、深刻な損傷に発展していくと考えられています。その結果、光学薄膜の干渉条件が変わるという段階から、薄膜物質が離脱するような損傷から、薄膜損傷のみならず基板の損傷にまで及ぶ深刻な損傷まで、多種多様な損傷がありえます。 光響オリジナル
16 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 16【損傷の本当の機構は何か?】 レーザー損傷には最初に何らかのミクロな損傷が発生し、次にそのミクロな損傷が中心になってより大きく、深刻な損傷に発展していくと考えられています。その結果、光学薄膜の干渉条件が変わるという段階から、薄膜物質が離脱するような損傷から、薄膜損傷のみならず基板の損傷にまで及ぶ深刻な損傷まで、多種多様な損傷がありえます。 光響オリジナル
17 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 17【損傷の本当の機構は何か?】 改めて筆者自身のレーザー損傷研究を振り返ると、1980年代に行なった KrF レーザー用誘電体多層膜開発は大きな進歩を遂げ、米国に大きく後れを取っていた損傷強度はフッ化物ペア光学薄膜とアニーリング効果の発見で米国の 2.5 倍の高耐力となりました。この原動力をなったのは、光音響法による薄膜吸収と損傷強度の精密測定法の開発でした。ただし、レーザー損傷の前躯現象の研究は、光音響信号にヒステリシスや線形からの逸脱が観測されましたが、それ以上の深い探求はされませんでした。日米セミナーで光学薄膜の吸収係数と損傷強度の相関関係から、酸化とフッ化物でグループとしての画然とした差が発見され、それには電子付着係数の大きなフッ素原子の性質が関係しているだろうという漠然とした予想がありました。この相関関係の発見を激賞してくれた Author Guenther の激励を受けて、帰国後、昭和光機と相談してフッ化物ペア薄膜で高耐力ミラーの開発に着手しました。 光響オリジナル
18 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 18【損傷の本当の機構は何か?】 これまでの研究でレーザー損傷に誘電体を構成する原子の電子を消滅させる能力、電子付着係数や誘電体や導体中ならば電子の再結合係数が関係している可能性があると考えたため、固体物質中の電子数を計測することを試みました。 光響オリジナル
19 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 19【損傷の本当の機構は何か?】 紫外用レーザー光学薄膜に用いる誘電体薄膜は当然、紫外線まで透明なバンドギャップエネルギーの高い誘電体なので、紫外線レーザーを使わないといけません。幸い、エキシマレーザー研究が主テーマであったので、ナノ秒パルスについては問題がありませんでした。しかし、ピコ秒紫外線パルスは独自に開発する必要がありました。 光響オリジナル
20 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 20【損傷の本当の機構は何か?】 そこで KrF レーザー照射による電子励起とその消滅についてシミュレーションを行なってみます。今はナノ秒パルスによる光励起ですので、電子励起のプロセスは 1 光子吸収による電子励起だと単純に考えます。 光響オリジナル
21 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 21【損傷の本当の機構は何か?】 誘電体薄膜の光伝導電流を計測してレーザー損傷の原因を突き止めようとする研究は、別の分野の研究を誘発しました。少し横道にそれますが、関連研究として紹介しておきましょう。研究というのはこのようにして、枝分かれしながら発展するのだ、ということもこの講義で伝えたいところだからです。選択と集中というのは良い勉強の方法ではありません。受験勉強と研究のための勉強の違いです。同じ頃、筆者の研究室の助手であった米田君が NEC 中央研究所と相談をして、ダイヤモンド光スイッチを使ったテラヘルツ発生の研究を開始しました。 光響オリジナル
22 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 22【損傷の本当の機構は何か?】 レーザー損傷の発端が絶縁破壊だと分かりました。これはミクロな損傷の始まりを意味します。しかし、レーザー損傷全体が絶縁破壊、プラズマ化で説明されるわけではありません。ミクロからマクロへの発展を考える必要があります。そこで、改めて、物質の破壊、破断という現象を考えてみる必要があります。 光響オリジナル
23 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 23【損傷の本当の機構は何か?】 ファイバーブラッグ格子 FBG はもう一つの体積による負担分散が有効な例です。単一モードファイバーはコア径が 5 ミクロンと小さいために、体積分散させた光学素子というイメージがないかもしれません。しかし、位相マスクで作り出した干渉縞でファイバーコア内に屈折率の周期的変化を形成している FBGの長さは結構長くて数 cm から 20cm にも及びます。FBG が非常に高い反射率と選択制を生み出す原理は、回折格子の溝本数に当る屈折率変調領域が長いことにあります。 光響オリジナル
24 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 24【損傷の本当の機構は何か?】 膜設計によって高耐力化を図ることも古くから行なわれてきた技術です。基本的な多層膜原理ではフレネル反射を最大限利用するため、高反射膜ではおのおのの誘電体膜の光学厚さは4分の1波長となっています。ところがこのような設計の場合、図に見るように、レーザー光の電界強度が最大になるポイントでフレネル反射をさせることになる結果、もっとも欠陥が多い境界層に最大電界がくるのです。薄膜損傷の多くは境界層の欠陥吸収から始まることもあるので、これはレーザー耐力という観点からは望ましくありません。そこで、薄膜設計を変更し、電界の最大強度点を膜の内部に移動させる膜設計が追求されました。もちろん、こうした場合、同じ反射率を達成するには、より多くの層数が必要になりますが、それでも耐力が上がるならば十分に価値があるということです。近年の膜形成ソフトの進歩により薄膜特性が精密に予測できるようになり、電界設計も容易になりました。 光響オリジナル
25 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 25【損傷の本当の機構は何か?】 レーザー損傷には薄膜技術のみならず、研磨技術も関係します。ここに示したように、表面粗さが粗いと、グレインが巨大化しやすいことは前回に示しました。そしてグレイン境界は物質状態が不完全であったり、欠陥がレーザー光を吸収するので、損傷の原因となります。より本質的に見ると、強い力がかかる研磨面には変成層が形成されるので、力をかけない研磨法がより適しています。他の分野では、イオンビーム研磨、選択的化学研磨、電解研磨などが用いられていますが、光学表面の平面度、表面粗さの要求が厳しいので、最終研磨が改めて必要になることが多いです。その中で新しい研磨法として MRF 研磨があるので、それを含めて紹介します。 光響オリジナル
26 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 26【損傷の本当の機構は何か?】 新しい技術との出会いは偶然で始まることが多いです。1990 年 5 月 CLEO@Anaheim に出席中、Benjamin Snavely から連絡があり、LLNL から KODAK の研究所に転職し、Federal System Division の研磨関係の副所長になったので、見学させてくれるというのです。CLEO の発表が終わっていたので、出張予定を変更し、急遽、ロチェスターに飛んで、Federal System Division を見学しました。そこでは第2ハッブル望遠鏡のミラー研磨をしていました。 光響オリジナル
27 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 27【損傷の本当の機構は何か?】 1991 年 12 月米国サンディエゴで開催された国際会議 LASERS’91 に参加して最終日にKrF レーザーの後方ラマン散乱によるパルス圧縮について発表した後、金曜日の朝からロサンジェルスに向かって車を飛ばし、Newport 社を訪問しました。 光響オリジナル
28 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 28【損傷の本当の機構は何か?】 PMS 社とは将来はそれらの超高性能ミラーを日本で国産化することの了解を取って、重力波研究用のミラー開発で共同研究に合意し、彼らが作ったことのない1.06μm 用の超高反射率ミラーの開発を開始しました。研磨技術は職人芸の世界で科学が入り込みにくいといわれます。しかし、Willis さんと話をすると、それは違うというのです。 光響オリジナル
29 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 29【損傷の本当の機構は何か?】 1996年、文科省派遣で欧州の光学技術調査のために2ヶ月間、ドイツ、フランス、英国の大学、研究所を訪問、滞在して、情報交換をしました。ちょうど重力波研究の重点領域研究が終了し、その次の段階、国立天文台に 300m 干渉計 TAMA300 を建設する計画が始まるときだったので、重力波アンテナ用の超高品質ミラー技術を国産化する必要がありました。 光響オリジナル
30 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 30【損傷の本当の機構は何か?】 レーザー損傷の機構の最後に述べたように、1980年代までのレーザー損傷研究は無損傷でレーザー光学系を使う条件のための損傷強度を求める研究でした。損傷についての考え方を大きく変えたのは、米国の核融合用レーザー施設 NIG でした。 光響オリジナル
31 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 31【損傷の本当の機構は何か?】 2013年10月、NIF を訪問したときの報告の一部として、MRF 研磨と光学素子リペアーについて議論します。筆者は 2012 年 3 月に電通大を定年退職をした。ICUIL で ICUIL で一緒に活動していた LLNL の C.Barty は退職後、米国に来ることがあれば、必ずLLNL を訪問してワークショップを開いてほしいと要望していました。 光響オリジナル
32 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 32【損傷の本当の機構は何か?】 ここからは MRF 研磨技術について紹介しましょう。それまで、筆者はこのような研磨技術があることはおぼろげながらに知っていましたが、見るのは初めてで、非常に興味を持ちました。担当者の Joe Menapaceと議論した内容をお知らせします。 光響オリジナル
33 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 33【損傷の本当の機構は何か?】 ちょうど筆者が訪問したときは QED Technology 社の大型装置でブラストシールド、つまりターゲットチャンバーの最終光学系を防護する石英窓(メートルサイズ)を再研磨しているところで、実際に動いている装置の横で議論しました。研磨機は 2M$と高価でしたが、メートルサイズの大型レンズの価格は 1 個1M$を超えるので、そのリペア加工ができる装置としては安価だともいえます。磁気流動液体を使った研磨で通常の研磨面に圧力をかけないので、表面に変成層を形成しません。これが損傷強度を上げるのに役立っているといいました。 光響オリジナル
34 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 34【損傷の本当の機構は何か?】 【レオロジーとは何か?】
【MRF 研磨の歴史】
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35 レーザー用光学素子の開発とレーザー損傷の物理 その2:植田 憲一 35【損傷の本当の機構は何か?】 ALDという成膜技術で、膜密度を上げてレーザー耐性を向上させることは原理的に可能かどうかという質問です。 光響オリジナル